独立前に勤めていた会社の部下だった現在の取締役(金澤聡40歳)が内密にどうやら同業種で独立の準備をすすめているとの密告が他の社員からあった。

社長も彼の行動に府に落ちない点は数々あり、薄々感ずいていたというが、独立時から10年以上も右腕として働いてきた金澤が自分に内緒で独立を考えているとは信じたくなかったという。

しかし、もし内密に進めているならば、自分の担当する得意先も持っていくつもりだろう。

そうなると、会社としても放っておけない事態になると判断し、早期にその実態を確認することとなった。

社内にも取り込まれている者がいるかもしれないので、取締役の素行調査は他の社員、役員には内密に実施する事とした。

対象者が自社内の取締役という事で、外回りの予定などは原則、社内の予定表に記される為、外出予定時に実施する事が可能となり効率的な調査が実施可能な状況であった。

合計7日間に及ぶ素行調査を実施した結果、既に自宅を本店所在地として新会社の登記は済まされている事が発覚した。

行き先とされた会社には行っていないことが殆どで、依頼者の知る都内の会社役員と密会、依頼者の会社と付き合いのある会社に新会社として営業に出掛けるなど、既に少しずつその活動もはじまっている様子だ。

幸いな事に自社の社員に関わっている者はなく、取り込もうとしている会社も大凡、掴めたため、調査を終了とした。

独立する事をとめるつもりはないが、依頼者としては彼の面倒をみてきた自負もあり、相談して貰いたかったし、それなら応援もしようと思えるが、結果的には裏切る形での独立。

残念な結果だったが、依頼者は切り替え、会社にとって最善の対策を講じる腹が決まったと言って事務所を後にしていった。